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企画の素

映像作家 今井いおりのブログです。

奇跡の洲本オリオン上映


2013年に洲本オリオンは休館した。

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そのニュースを知った時、 
親父がカップラーメンの啜る音を館内に響かせながらスクリーンを見ている姿を思い出した。 
30年程前は映画館でカップラーメンが食べられたのだ。
 

休館は今から5年前の話だ。 
その時僕はテレビ番組を作りながら映画「ろまんちっくろーど~金木義男の優雅な人生~」というドキュメンタリー映画の制作に励んでいた。
 映画が完成し大阪のシアターセブンをはじめ日本各地で上映してた時に洲本オリオンの復活を知った。 

十三シアターセブンにて01
十三シアターセブン

岡山にて01
岡山奉還町

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宝塚映画祭


洲本オリオンで上映したいなぁ。

そんな想いを持ちながら上映と仕事に明け暮れる毎日に時間は過ぎていった。 

淡路島の南あわじ市福良では、
春祭りに40手前になった男が厄落として神輿を担ぐ。
 


私もその年齢になっていた。 

地元の友人から連絡があり
神輿を担いで欲しい、それと記録ビデオも作って欲しいと依頼が来た。 
神輿を担ぎながら撮影はできないので、撮影は「ろまんちっくろーど~金木義男の優雅な人生~」のプロデューサーの松本君が、編集は私がする事になった。 

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神輿の準備を撮影する松本プロデューサー

祭りが終わり編集しているところに福良の友人から連絡があった。
 「淡路島短編映画祭に出品できへんけ? 洲本オリオンでやるねんけど」

なんと洲本オリオンで淡路島短編映画祭が行われていたのだ‼︎ 

作品のタイトルを
「我ら島の祭人2017~福良男児の心意気~」
神輿を担ぐメンバーにより結成した正友巳午會の作品として出品。
 
洲本オリオンのスクリーンに神輿を担ぐ福良の友人達が映し出されたのだ。

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かつて親父と一緒に見ていた洲本オリオンで福良の友達と皆で観た。

その年の出品作品で「我ら島の祭人2017~福良男児の心意気~」は1番の人気投票を得た。

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今も平松食堂の店内に飾られている。


 そして、洲本オリオンの野口さんと、淡路島短編映画祭の近藤さんとも知り合いになり、昨年の映画祭から一年を経て、 
「ろまんちっくろーど~金木義男の優雅な人生~」 
「我ら島の祭人2017~福良男児の心意気~」が上映する運びに。 

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洲本オリオンのポスター展示

信じられない事が実現した。 
これは福良の友達、応援してくれている洲本オリオンの野田さんと淡路島短編映画祭の近藤さん、そして福良の春祭を撮影してくれた松本君、いつも励ましてくれる、淡路島と同じ大きさと形の琵琶湖を有する滋賀在住のアーティスト よしこストンペアさん、そして金木義男さんのおかげなのだ。

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正友巳午會 洲本オリオン前にて

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よしこストンペア(横浜 大倉山ドキュメンタリー映画祭にて)

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淡路島福良の町並みを撮影する松本プロデューサー

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金木さん 自宅前にて



 淡路島の皆さんには洲本オリオンで2作品を是非観てください。  
「ろまんちっくろーど~金木義男の優雅な人生~」100分 
「我ら島の祭人2017~福良男児の心意気~」20分 
 6月2日3日18時30分から 洲本オリオンにて上映‼︎

洲本オリオン
住所:〒656-0025
兵庫県洲本市本町5-4-8 
℡:0799-22-0265

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[ 2018/05/23 12:56 ] 日記 | TB(0) | CM(0)

洲本オリオンでの思い出

淡路島唯一の映画館「洲本オリオン」

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僕が幼かった35年程前は2館あり洲本オリオンは洋画を上映する映画館だった。

映画を観たい僕は、スーパーのレジに置いてある映画の割引き券をもらって来てそっと家の玄関に置いておく。 

すると日曜日に父親が家から30分車を走らせ、洲本オリオンに連れて行ってくれた。

まぁ父親も映画が大好きなのだが。

洲本オリオンの近くには、自転車業を営む父方の祖父の店があり、
映画を観た後は、じいちゃんからお菓子とジュースが貰えるという子供にとっては至福の時間だった。 

さて、思春期になると話しが変わって来る。 

中学生になっても親父に映画館に連れてもらっていた。 

当時、淡路島のバス運賃は非常に高くバスの往復代と映画チケット代で5千円は超えたのだ。 
とても中学生に払える額ではない。

僕が中学3年生の時、洲本オリオンでジェラシックパークが上映された。
 
当時リアルに動く恐竜が話題になり一大ブームとなった作品だ。

 





当然、親父と見に行く事になった。

映画館の座席に座ると、前の列に同じ部活の5人程の女子達が座っていた。 

この時、親と一緒じゃなく自分達で映画館に来てるってカッコいいと思った。

映画が始まった。

迫力ある恐竜のリアルな動きに興奮した。 
そして、1番興奮していたのは親父だった。 

 スクリーンでは、主人公達が暴れ狂う恐竜から逃げている。

死にものぐるいで建物の屋根裏に逃げ、恐竜には届かない場所に隠れた主人公達は安堵を見せる、
その瞬間、真下から口を大きく広げた恐竜が主人公達を襲うのだ。

その時、ウチの親父は
「ギャー」と叫ぶ。

部活の女子達が一斉に後ろを向く。 
僕は下を向く。 

そこからジェラシックパークの内容は覚えていない。 
翌日の部活で軽く話題になる。 

思春期のハートはボロボロになったのである。 

それがあって父親には映画は一人で見ると宣言した・・・
ものの小遣いでは行けずにその後も親父と一緒に行く事になるのだ
・・・が席は隣ではなく親父とはだいぶ離れた所で見る事になった。

私にとって洲本オリオンは
チョイ親離れの場所であった。 

そんな思い出詰まった洲本オリオンで自分の映画「ろまんちっくろーど~金木義男の優雅な人生~」を上映していただくのだ。

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こんな嬉しい事はない。

是非とも来てください‼︎

そしてあなただけの思い出を洲本オリオンで作ってください!

6月2日(土)3日(日)
18時30分から
無料です‼︎

2017年に淡路島の南あわじ市の春祭りをドキュメンタリー映画にした
「我ら島の祭人2017~福良男児の心意気~」も同時上映‼︎

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大阪の哲学者の生き様と神輿を担ぐ男達の熱気を楽しんで下さい!
[ 2018/05/16 15:49 ] 日記 | TB(0) | CM(0)

取材こぼれ話【さらば青春】

仕事柄、色んなお仕事の方にお会いするのだ。

そして、立ち話から、取材テーマとは違う面白い話を聞く事ができるのだ。

今回はそんな話。

その日はハローワークに長年勤めている吉岡さん(仮名・58歳)と立ち話をした。

取材のテーマは子育てしているお母さんへの就業支援。

その流れで、ふと前々から疑問に思っていた事を質問してみた。

「よく収入が多いと生活が安定するので、子供を育てられる、今は不安定なので少子化になっていると」

おそらく賢い人が調べたのだから間違っていないのだろう

「しかし、私の周りを見ると、私のような不安定なフリーランスの方が結婚していて子どももいる、そして安定した会社に勤めている人の方が独身で、子どももいない、何故でしょうかね?」

吉岡さんはこう答えた

「それはね、強いからなんですよ」

「組織に属さず己の力で生きて行こうなんて、並大抵じゃない」

「私の親父は町工場の社長で、忙しい時には毎日夜中の2時3時まで、そして暇な時には1カ月何もしない、あれは子供心に不安だった」

そうか、ハローワークの職員は求職者だけではなく、事業主とも付き合っているのだ、だから事業主の強さを知っているのだ。

そして、僕の周りの状況は僕の周りだけの話だ。

そして吉岡さんは

「私の息子は30で定職に就き彼女もいる、でも結婚しない、聞くと今の仕事でいいのかと悩んでいるようだ」

「ゆとり世代というか・・・青春謳歌してるのかな」

ゆとり世代が30歳という驚きと、確かに青春謳歌は納得できた。

そういや、息子は4月で小学生、私もいつの間にか40歳。

青春なんていつの間にかおサラバしてて、それでいてちっとも寂しい事もなく。

施設内では幼児を抱っこしたお母さんが真剣に求職票を一枚一枚めくり仕事を探していた。

ちょもらんま企画 今井いおり拝
[ 2018/02/16 22:59 ] 取材こぼれ話 | TB(0) | CM(0)

宝塚映画祭2015 

5月17日 日曜日 あれは、大阪都構想の是非が決まる日だった。

私は、滋賀県石部で行なわれた「雨山ですよ!ちょうどいい音楽会」で
よしこストンペアさんとタテタカコさんのライブを楽しんでいた。

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大阪市民なら覚えていると思うが、あの選挙は市民にとってかなりのストレスだった。
そのストレスを忘れさせてくれたのが、「雨山ですよ!ちょうどいい音楽会」だった。

ライブが終わり、イベントのボスである門田さんの畑で、ライブの打ち上げまで時間をつぶしていた。

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そんな時である、1人の女子から突然連絡があったのだ。

「宝塚映画祭のカワシマというものですけど・・・宝塚映画祭で『ろまんちっくろーど』を上映したいと思ってましてー」

幸福は突然やってくる。

私は、是非是非でと承諾 しかし次の言葉に私は頭が真っ白になった。

「上映料はおいくらでしょうか?」

「・・・・分かりません」

映画を作った本人が映画の上映料の値段を知らないのだ。

あなたは八百屋に行って、大根の値段を聞いて

「分かりません」と言われたことがあるだろうか? 私はない。しかし私はやってしまった。

『あかん、アホな監督と思われる』

とっさに、ビジュアルアーツ専門学校の同級生で映画「ソウルフラワートレイン」の西尾監督の言葉を思い出した。
彼には、ろまんちっくろーどを上映する際に色々とアドバイスをいただいていたのだ。
そのアドバイスの一つ

「今井君、新人とか無名、有名関係なしに、自分の映画を安売りしたらあかんで」

私は、大きく深呼吸してこう言った

「値段は・・・言い値でいいです。」

完全にアホは監督として認識された瞬間である。
しかも言い値は売り手からの値段である。
アホが2重3重にも重なる。

さすがに、宝塚映画祭のカワシマさんもうろたえてしまう有様。

私の目の前には、門田さんの作った美しい畑が広がっていた。

しかし、宝塚映画祭の上映が決まった瞬間でもあった。

そして、この日は、金木さんがタテタカコさんに無理やりキスをさせた記念すべき日でもある。

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夏のはじめに、宝塚映画祭のカワシマさんから連絡があった。

「今年の宝塚映画祭のトレイラーを作って欲しい」

監督の仕事としてのオファーだった。

監督としてのオファーは初めてなので嬉しい限り。

今年は谷崎潤一郎が亡くなって50年を迎えるという事で、それをテーマに谷崎潤一郎原作の映画が宝塚映画祭で数多く上映される。

実はこれまで谷崎潤一郎は一冊も読んだ事がなかったのだが、「春琴抄」がたまらなく面白かった。

春琴抄をモチーフに宝塚を舞台に短編映画を作る事になった。

さて、春琴抄をどうやって宝塚を舞台に物語にするか、さっぱり分からなかった。
分からない時は、歩くしかない。
時間を見つけては、宝塚に足を運んで散歩した。

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「春琴抄」で春琴が雲雀を飼っているくだりが出てくるので、雲雀丘花屋敷で雲雀を逃がす話にしようと、色々調べたら、雲雀はなんやかんやで保護されているので、入手が困難で、取り扱っている店を見つけたら秋田県だったり高価であったり、予算の事を考え、雲雀自体は諦めて、せめて声だけでも録音しようと南港の野鳥園に行き、やぶ蚊にかまれて、カラスの声だけ収録して帰ってきて、その夜に雲雀は春の鳥という事を知るなど、まぁまぬけな事をしていた。

という訳で歩いた歩いた。
「脚本」は「脚」「本」とあるとおり、脚を使えば物語ができると信じて宝塚を歩いた。

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そして、清荒神駅前でコロッケ屋の北川精肉店に出会う事になる。
清荒神駅前は完全に寂れた所なのだが、そのコロッケ屋だけ光輝いていた。
一口食べると唸る美味しさだった。

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※コロッケはあっという間に売り切れてしまうので閉店中

私の頭で、スーッと一つの物語が誕生した。

脚本が書けた。
キャスティングでは、佐助役に大江監督の「適切な距離」を見て、ずっと一緒にやりたかった時光陸君と春琴役には背が小さく、お嬢さんで、美人ということで「拳銃と目玉焼」の沙倉ゆうのちゃんにそして撮影には「拳銃と目玉焼」の安田監督に、音声はろまんちっくろーどのプロデューサー松本君。

撮影は本当に楽しかった。

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清荒神での撮影
清荒神での撮影01

今回、安田さんに撮影を頼むことで、撮影スケジュールを安田シフトで組んだ。
というのも、安田さんは美しい映像を確実に撮ってくれるのだが、いいものを作ろうとすると
どうしても時間がかかる。
なので、「1時間に2カット以下」
これなら安田さんも満足な映像が撮れると、私は自分の心遣いを誇っていた。

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しかし後日、安田さんの映画「ごはん」を手伝いに行くと、安田さんは4時間で1カットという撮影を平気でしていた。
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※映画「ごはん」撮影風景

お芝居では、時光君もゆうのちゃんも「春琴抄」の原作までちゃんと読み込んで演じてくれた。
宝塚映画祭のカワシマさん筆頭に皆さん、献身的に動いていただいた。

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最高に幸せな時間でした。

そして完成した宝塚映画祭2015 トレイラー



撮影の事となるともっと語りたいので、それは11月22日の宝塚映画祭での「ろまんちっくろーど~金木義男の優雅な人生~」の上映後に今回のトレイラー制作の事をお話させていただきたいと思います。
そして、金木さんには、金木さんが映写技師をしていた時の爆笑失敗談。
最後によしこストンペアさんのライブを楽しんでいただきたいと思っています。

なんの因果か、ろまんちっくろーどの上映のオファーが来た時が大阪都構想の選挙の日で
宝塚映画祭でのろまんちっくろーどの上映が、選挙の日。

選挙で疲れた皆様、投票後は是非宝塚映画祭で映画を楽しんで、清荒神駅前の北川精肉店のコロッケを味わってください!

宝塚映画祭2015 11月21日~27日

ろまんちっくろーど~金木義男の優雅な人生~
11月22日 18:35~ 上映後トーク&ライブ
11月27日 16:45
[ 2015/11/19 20:11 ] 日記 | TB(0) | CM(2)

お金の事ばっかり考えている

企業PRビデオの撮影で鹿児島に向かうために、関西国際空港でツトム(27)とディレクターの武本(56)は時間を潰していた。

ツトムは今回、武本の助手とカメラマンを務める。

武本はツトムに台本を渡した。
内容はの鹿児島のU市とB社が連携し、通信機器を使い、町ぐるみで徘徊老人をパトロールしているというものだ。
注意書きに手書きで「徘徊老人役は現地にて確認」の赤文字。

予算のない仕事で役者に出演してもらう事はできないので、実際に現地の元気な老人に出てもらう話で進めていたが、元気な老人が徘徊老人役を嫌がりなかなか話が進んでいないと聞いていた。
ツトム「徘徊老人役、どうなるんですかね」
武本「わかれへんねん・・・絶対いるよなぁ〜」

出発時間の30分前にB社の向田(42)がやってきた。
今回の仕事のクライアントだ。
向田は着くなり「今回の映像、なんでやるかサッパリわかんないんですよー」と言った。
武本「徘徊老人ってまだ連絡ないですよね」
向田「どうせ無理だと思って向こうに頼まなかったんですよ、無くても大丈夫ですよ」
武本は「あはは」と笑った。

一行は飛行機で鹿児島に行き、レンタカーでU市に向かった。
U市に行く途中の道は、チェーン店と大型看板、田んぼといった地方ならではの景色が広がる。
「警備員日当 18000〜」の看板が目に留まった。
ツトムは、「俺の日当の2倍ある」と思った。

U市にあるB社の支店に到着した。
早速、撮影機材を運び、支店長のコメント撮影の準備に入る。
向田は支店長に会うなり「すいません、こんなのに時間を取らせちゃって」と言った。

そこの従業員達は、支店長の台詞を書いた大きな紙、いわゆるカンペを用意していた。
前日まで話す内容が決まらなくて、慣れないカンペ作りを徹夜で仕上げなんとか撮影ギリギリに間に合わせたという。

撮影が始まると、カメラの周りには従業員達が集まり、支店長の緊張した喋りをニヤニヤと見ている。

「そげん見られたら ちゃんと話せん」

支店長が言葉に詰まるたびに笑い声が起きた。

支店長の撮影は予定より1時間掛かって撮影が終了した。

その後、町の人とB社の人達が通信機器を使って連絡を取り合うというシーンやB社の通信機器の商品撮影、U市の自治会長のコメント撮影が行われた。

U市もB社の人も皆、協力的だった。

ただ徘徊老人のシーンだけ撮影していなかった。

武本は向田に「皆さん、協力的ですし、徘徊老人役を今募っちゃダメですか?」
向田「やめときましょうよ、面倒じゃないですか」

武本はツトムに機材を片付けるよう言った。

U市と、B社の人達が打ち上げを開いた。
会場に入ると一斉に武本を囲んだ。
「今日ははるばる大阪からありがとうございます」
「台本読ませてもらってワシら偉い感動しまして」
「僕らの取り組みを分かりやすくまとめて頂いて」
「私たちの活動ば、インターネットで発信して、知ってもらえるば、嬉しか」
「ワシの失敗した所、カットしてくださいや!」

皆んな目を輝かせて武本を見ている。

「これは、今日採れた地鶏」
「地元の場刺しです 食べて下さい」
「地酒も飲んでください、辛口で旨いですよ 飲んでください」

どれもこれも美味かった。

ツトムは酔っ払ったB社の従業員に話しかけられた。
「ウチの会社はいい会社だ、家から2時間かけて通勤しても全部交通費を払ってくれる、
毎日往復で5000円もかかんだよ、それを面倒見てくれんだよ いい会社だ」

ツトムは相槌を打ちながら、聞いていた。

相変わらず武本を囲んで盛り上がりを見せていた。
「武本さん、女の子の店いきましょうよ!」
誰かが言うと、やんややんやと盛り上がる。
退屈そうに飲んでいた向田が「じゃあ僕も行こうかなー」と言ったが誰も返事はしなかった。

「では、ここでお開きと言うことで、2次会行く方は行きましょー」

武本はツトムに「もうええで、帰りや」と言った。
ツトムはホッとして帰ろうとすると

幹事の男が
「カメラマンさん、5千円になります」

ツトムは「あぁ」と情けない声で五千円札を渡し「さっき話したオッサンの交通費以下のギャラや」と思った。

その後、武本とU市と、B社の人達は、近くのスナックに行き、ツトムは旅館の部屋に戻った。

ゆるい閃光とドーンという音がなり窓の向こうで花火大会が始まった。

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ツトムは暇潰しにスマホで動画を見ていた。

その動画では男が自己啓発セミナーをしていた。
受講者は、若い整体師達だった。

整体師達は「何故、治療した患者がまた戻ってくるのか分からない」と話していた。

それに対して男は
「それは、もしあなた達が、患者を完治させていまえば、患者がいなくなる、
そうするとあなたの病院はお金儲けができなくなる。
だから、あなた達は上の人達に、ここまでは治療しなさいと、教えられ、実際そうする。
しかしあなた達は、患者を完治する術を知っている。
学んでいるはずだ。
でもできない。
何故か?
上司に楯突いたと思われる?
組織の為に動く。
そういう空気の中で生きている。
そして、そうした方が、あなたの収入は安定すると思い込んでいる。
それが洗脳されている状態なんです。
あなた達は、病院に勤務する前に持っていた志があったはずです。
患者の痛みを取り患者の幸せに貢献する、そうでしょ!
あなた達本来の可能性を解放してください!」

男の言葉はツトムに響いた。
この男の話を聞いてみたいと思った。

ツトムは早速、男の名前を検索した。
すぐに男のホームページがあった。
受講料のページを見ると、5時間10万円をあった。

ツトムはそれを見て、ページを閉じた。

廊下から、武本の呻き声が聞こえた。

廊下に出ると、千鳥足の武本が壁にもたれて這いながら自分の部屋に向っていた。

「大丈夫ですか?」
「飲みすぎたー ブスばっかりやー」

武本は、倒れそうになりながら、部屋に入っていった。

部屋に戻ると花火大会も終わり静かな夜が流れていた。

数週間後、作品は完成し無事インターネットで配信された。
徘徊老人を見つけて家族に連絡するシーンが加えられていた。
試写を行った時に向田の上司が、徘徊老人のシーンがないのはおかしいと言い、再び撮影が行われたのだ。

武本と向田の間でどういうやりとりがあったかは知らない。

ツトムにギャラが振り込まれたのはそれから半年後の事だった。
[ 2015/08/12 00:19 ] フィクション | TB(0) | CM(0)
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